Technical Informatio 技術情報

 私たちFC-Cubicの燃料電池評価技術について紹介します。燃料電池自動車などに搭載されている固体高分子形燃料電池の一般的なセル構成は、水素と酸素がそれぞれ反応する2つの触媒層と電解質膜、ガス拡散層(GDL)、セパレータであり、この最小限の構成が単セルです。実際の燃料電池自動車にはこの単セルがいくつも積層されたセルスタックの状態で搭載されていますが、私たちは主に単セル状態での燃料電池を用いて触媒や電解質膜の性能を研究しています。発電試験で燃料電池を評価するには先ほど説明した触媒層と電解質膜、GDLが積層した膜電極接合体(MEA)を作製して評価セルを組み立てます。これらのMEA作製技術や燃料電池評価技術について各項目ごとに紹介いたします。

 

MEA作製

 触媒の燃料電池性能は実際に発電試験を行って評価します。発電試験では触媒層と電解質膜、ガス拡散層までが一体となった膜電極接合体(MEA)の状態で評価セルに組み込んでいます。そのため、触媒の粉の状態からMEAの状態まで作製する各プロセスが必要です。FC-Cubicでは、触媒インクからMEAの作製まで一貫した体制で行っています。

触媒インク調製

燃料電池触媒とアイオノマー、溶媒を均一に混合、分散して触媒インクを調製します。インクの粘度や触媒の凝集状態を管理しており、発電性能への影響を最小限にしています。

インク塗工プロセス

ブレード式やスプレー式の塗工装置により触媒インクをシートに均一な厚さに堆積します。スプレー塗工では電解質膜に直接触媒層を堆積することができます。塗工後の触媒層の状態を顕微鏡で観察し、膜厚や割れがないかなど確認しています。

転写プロセス

シート上に塗工された触媒層を電解質膜へ転写します。水素極と空気極の触媒層をそれぞれ電解質膜に転写します。さらに、サブガスケットやガス拡散層(GDL)を熱圧着によって積層することでようやくMEAが完成します。

燃料電池性能解析

 燃料電池評価装置による発電試験を通して触媒金属比表面積や触媒活性だけでなく様々なMEAについての情報を得ることができます。さらには、1-D (伝送線)モデルのような数理モデルを組み込むことで発電損失要因の具体的な理解が可能になります。また、耐久性試験中のドレン水や排気ガスを分析することで白金触媒や電解質膜、担体カーボンの劣化要因に関する情報が得られます。

物性・特性評価

触媒層評価

MEA内の触媒層について様々な評価、観察を実施しています。走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による構造観察と窒素ガス吸着測定などから触媒層中のナノ~マクロ細孔まで評価できます。また、熱重量測定(TG)や蛍光X線分析(XRF)により触媒担持量や触媒層中の触媒金属を定量できる他、種々の評価手法によって触媒層中の酸素拡散や水蒸気吸着特性なども評価しています。

触媒・電解質膜観察

走査透過型電子顕微鏡により触媒や電解質膜などの様々な構造を観察することができます。3Dイメージング機能により複雑な細孔構造を持つ中空担体の三次元情報などを得ることができます。クライオ観察や液体観察に対応するホルダーを適用することで様々な状態の電解質膜やアイオノマーの観察が可能です。

電解質膜評価

高分子電解質膜の分子構造や分子量等の基本的な情報から試験後の劣化膜の状態について様々な評価、解析を実施しています。燃料電池性能への影響が大きい電解質膜中のH+や水の移動、ガス透過性などの物質輸送特性、引張試験や動的粘弾性などの機械特性についても評価しています。

FC-Cubic小型燃料電池セル

 産業界における燃料電池評価のノウハウを集約した新型評価セルを開発しました。面圧管理をバネで受け持つことにより熱膨張時の過荷重を適度に緩和できる設計になっている他、電極面積を1 cm2にすることで従来の評価セルに比べて触媒や電解質膜の使用量を抑えることができます。評価セルのサイズ感やクロスフロー設計などセル組みのハンドリングや測定安定性にも考慮した評価セルです。 詳細につきましては、お問い合わせフォームまたは fc3cell@fc-cubic.or.jp までお問合せください。

 

研究ツール・ノウハウ

 諸外国においては燃料電池開発研究の産学官連携が国・地域によって加速しています。一方、我が国でも産学官連携を推し進めるべく産業界とアカデミア間での技術や人材の交流を活性化させる施策として、産業界の持つ燃料電池に関する研究開発ツール・ノウハウのアカデミアへの提供を開始いたします。産業界とアカデミアとの橋渡し役をFC-Cubicが担い、産学官連携による日本の燃料電池業界の活性化に貢献いたします。

本情報は提供希望の日本国内のアカデミアの皆様に限定させていただきます。詳細はお問い合わせフォームまたは Info-fc3@fc-cubic-event.jp までお問い合わせください 。
一般公開情報につきましては、 第 5 回 FC-Cubic オープンシンポジウム資料 一般公開| FC Cubic オープンシンポジウム (fc-cubic-event.jp) にあります 1.研究開発用 Tool/Know How 共有に向けた取り組み をご参考ください。

RDE評価法
FC-Cubicで標準的に行っているRDE評価法をまとめたものです。
FC-Cubicの装置環境での手順、留意事項について詳細に記述していますので、 一部、装置環境に合わせた読み替えをしていただくことで、 それぞれの環境下で活用できると思います。
参考にしていただければ幸いです。
NEDO PEFC セル評価解析プロトコル
2023年度版
 PEFCの研究開発レベルの向上により、従来の小冊子で記載されているセル評価解析プロトコルのみではPEFCの研究開発には不十分になってきており、新たに必要な評価項目に関してFCCJで見直しが行われました。その結果は2020年3月に公開されましたが、その評価項目の追加をうけ、実際にその項目を共通の評価解析方法で行うセル評価解析プロトコルの検討をNEDO事業の「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/電気化学的特性測定技術の研究開発」で進め、追加項目の一部についてセル評価解析プロトコルを策定して2022年3月版として公開を行なっています。今回、新たに拡散層、バイポーラプレートも含めた評価解析プロトコルの策定を行いましたので2023年5月版として公開いたします。